ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、以下PVC)の劣化は主に加工時の熱によりPVC分子内の水素(H)と塩素(Cl)が脱離する、『脱HCl反応』によって生じます。脱離したHClがこの脱HCl反応を促進させ、ジッパー反応という連鎖的に進む反応が起こります。その結果共役二重結合(2個以上の二重結合の各間に1個の単結合があり、それが連なってできた結合)が生成してPVCは着色し、劣化します。
図1.PVCの劣化
このPVCの着色や劣化を防ぐために、例えば金属カルボキシレートが用いられています。使用される金属カルボキシレートは亜鉛(Zn)系、バリウム(Ba)系、カルシウム(Ca)系、スズ(Sn)系、鉛(Pb)系、などがあり、カドミウム(Cd)系もありました。金属カルボキシレートはHClと反応して、塩素と金属の化合物が生成します(図2)。この結果、脱HCl反応を促進させる遊離HClの発生を抑え、PVCの劣化を抑制することができます。また金属カルボキシレートはPVCとも反応し、脱離の開始点となりやすい二重結合に隣接している炭素に付加しているClと反応することで、PVC中の共役二重結合の生成を抑制することができます(図3)。
図2.金属カルボキシレート[Me(OOCR)2]による塩化水素の捕捉
図3.金属カルボキシレート[Me(OOCR)2]によるPVC中の共役二重結合生成の抑制
PVCは加工時の熱だけでなく、加工後の製品が100℃付近の温度に曝されたり、紫外線に曝される事でも脱HCl反応が生じ、着色します。これら様々な要因による劣化を抑制するために金属カルボキシレートに加え、酸化防止剤(フェノール系、ホスファイト系)、初期着色防止剤、および紫外線吸収剤等の複数の原料を組み合わせることによって、各PVC製品に適した安定化効果が得られます。
このようにPVCを安定化させる添加剤を総合的に安定剤と呼びます。当社ではさまざまなPVC製品に適した安定剤を数多く取り扱っております。
参考文献
古谷正之 「塩化ビニル樹脂」 日刊工業新聞社
吉田時行、進藤信一、大垣忠義、井出袈